東京奠都百五十年

二百六十余の長きに渡って続いた江戸時代も慶応三年（1867）の大政奉還・王政復古と、慶応四年（1868）一月からの戊辰戦争を経て、同年九月に元号が明治と改まり、新時代を迎えました。改元に先立って、旧暦慶応四年七月十七日（1868年九月三日）、明治天皇は「江戸ヲ称シテ東京ト為スノ詔書」を発し、江戸の総称を東京として、ここで新政府の政務を執ることを決定しました。

明治天皇は、明治元年十月十三日に初めて東京へ東幸し、江戸城はその日のうちに東幸の皇居と定められ東京城と改称されました。明治天皇は、東京市中の一五九二町に、酒樽と瓶子をお配りになり、市中では「天拝頂戴」の奉祝が行われました。翌明治二年（1869）三月、再度の東幸をされた明治天皇は、ここに滞在するために東京城を『皇城』と称するとされ、政務をお執りになられました。それまでの都を廃都し、天皇陛下の住まいごと都を遷すのが『遷都』ですが、お住まいを京都（京都御所）に残しながら、政治経済の都を遷す『奠都』が為されました。（因みに、明治天皇・大正天皇・昭和天皇の即位の礼は京都で行われ、今上天皇の即位の礼は初めて東京で行われました。）こうしてみますと、本年（二〇一八）は、東京奠都百五十年の節目となる年なのです。

東京奠都三十年祭

東京に奠都してから三十年の節目となる明治三十一年（1898）四月十日、「東京奠都三十年祭」が行われました。二月四日に祝賀会が発起され、三月八日に発起人会会長として子爵岡部長職氏、副会長には渋澤榮一氏が就任しました。祝賀会の主会場は皇居前広場の二重橋前で、第二会場は上野公園。主会場には天皇皇后両陛下が御臨席になりました。

主会場の皇居前広場では多くの山車が曳かれ、余興として「大名行列」「奥女中行列」「武士行列」「昔話踊り」「長唄演舞」等、様々な出し物があり、さながら往年の天下祭を彷彿させるものであったようです。第二会場の上野不忍池では、花火が打ち上げられ、主会場に入れなかった群衆が詰めかけ大盛況となりました。市内各区の町々には国旗が掲げられ、家々には軒提灯が飾られ、ことに日本橋区、京橋区、神田区、麹町区では、山車・屋台も出されました。日本橋の南北には、安芸の宮島を模した奉迎の鳥居が建てられれ、欄干も神社の玉垣に見立てて作られるなど、壮観な姿は衆目を集めました。東京市中は、それぞれ工夫を凝らした催しをしたようで、さながら東京全体が奉祝会場であるかのように大いに賑わい、東京外からも数十万人が押しかけ大盛況となったわけです。

東京奠都五十年祭

大正八年（1919）五月、東宮殿下（昭和天皇）の御成年式と併せて、東京奠都五十年祭が行われ、日本橋・神田周辺では奉祝として、江戸山車が小屋掛けで展示されました。このように東京は、節目節目で東京奠都の周年を祝ったのですが、その後の東京は、大正十二年（1923）九月一日に関東大震災に見舞われ、更に昭和二十年（1945）三月十日には、東京大空襲という戦禍で都心部は壊滅してしまったのです。ゆえに奠都周年奉祝が、その後為されることはありませんでした。

昭和四十三年（1968）、東京奠都百年にあたる年、明治百年として全国的にお祝い事が催されていましたが、東京は奠都百年の行事は行われませんでした。東京奠都の意味合いが忘れ去られてしまったかのようです。

本年は、日本の首都〝東京〟にとって奠都百五十年の節目となる重要な年です。皇城の鎮めたる日枝神社は、東京の鎮めでもあるはずです。現在東京は、二〇二〇年に東京オリンピックを控え、着々と準備が進められていますが、東京にとって今年こそ歴史的に重要な節目の年であることを認識し、本年の山王祭は産子各町が盛大に「東京奠都百五十年」の奉祝と併せ、斎行して頂きたいと望んでやみません。

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